再びVC投資が増える米国

バイオ、ライフサイエンス分野が急増
2007年5月25日 金曜日 矢野 和彦

 米国ではベンチャーキャピタルによる投資が、このところ増加基調を続けている。全米ベンチャーキャピタル協会によると、今年1〜3月期におけるベンチャーキャピタルの投資額は総額71億ドルで2001年10〜12月期以来の高水準となった。
 件数ベースでは778件と、昨年10〜12月期の802件から多少減少したが、1件当たりの投資額の増加によって、金額ベースでは昨年10〜12月期の57億ドルから約25%の増加となった。

牽引役はライフサイエンス産業への投資
 1〜3月期の投資のうち、初めてベンチャーキャピタルの支援を受けた企業への投資は223件で、金額は15億ドル(全体の21%)だった。このうち、件数にして全体の72%に相当する158件、金額では48%に当たる7億ドルが、「シード」「アーリーステージ」と呼ばれる創業期や成長初期段階にある企業への投資となっている。他方で「レイターステージ」と呼ばれる成熟企業への投資も活発に行われ、2000年10〜12月期以来の高水準となった。
 投資先企業を産業別に見ると、とりわけ大幅な増加を見せた最大の牽引役は、バイオテクノロジーや医療機器といったライフサイエンス産業である。バイオテクノロジーは個別業種としては最大の投資先となっており、また医療機器業種への投資額は昨年10〜12月期から60%もの急増を見せた。
 無論、ソフトウエア業種やネットワークサービスなどIT(情報技術)関連業種も大きな比重を占めているが、足元では全体の投資額の36%を占めるライフサイエンス産業が、ベンチャーキャピタルの関心を最も集めているセクターのようである。
 現在、米国におけるバイオテクノロジーの市場規模は約400億ドル程度と言われるが、ライフサイエンス産業は21世紀における米国の国際競争力をリードする産業になると期待されている。こうした期待感からベンチャーキャピタルによる同産業への投資も大きく加速しているわけである。
 ちなみに、ライフサイエンス産業の集積や発展について最も有望な都市と見られているのがマサチューセッツ州のボストンで、これに続くのが西海岸のサンフランシスコとその周辺地域を含めた「グレーター・サンフランシスコ」と呼ばれるエリアである。サンフランシスコのあるカリフォルニア州やボストンのあるマサチューセッツ州はともに、ベンチャーキャピタルに支援を受けた様々な業種の企業の集積地としても米国でトップクラスの州である。

驚くべきベンチャーキャピタル支援の長期的な成果
 こうしたベンチャーキャピタルによる活発な投資や、支援を受けて成長する企業が米国に数多く存在すること自体はよく知られている。しかし、米国におけるベンチャーキャピタル支援の長期的な成果が、どれほど大きなものになっているかという点は、必ずしも広く伝わってはいない。
 実は、全米ベンチャーキャピタル協会と全世界の経済及び産業分析などを手がけるグローバルインサイトマサチューセッツ州ボストン)が先頃公表した調査結果では、ベンチャーキャピタル支援の長期的な成果が驚くほど大きなものであることが示されている。

 「ベンチャーインパクト(Venture Impact)」と題された調査報告書によると、米国でベンチャーキャピタルの支援を受けて成長した企業が生み出している雇用者の数は、2005年時点で約1000万人に上る。これは現在の民間企業の雇用者数全体の1割近くに匹敵する規模だ。また売上高では2005年には2兆1000億ドルと、米国企業の売上高全体の約8%、名目GDP国内総生産)の約17%もの規模に達している。
 さらに2003年から2005年にかけての雇用や売上高の増加ペースは、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業が、それ以外の企業を大きく上回るものだったことが示されている。
 インテルマイクロソフトスターバックス、グーグル、ホーム・デポ、そしてフェデックスなど、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業の中には、現在既に米国を代表する大企業にまで成長した企業も数多くある。米国ではベンチャーキャピタルの支援が長期的に産業地図を塗り替えてしまうほどの大きなインパクトと果実を米国にもたらしているのである。
 日本でも近年ベンチャーキャピタルの活動は徐々に広がりつつあるようだ。経済産業省の外郭団体である財団法人ベンチャーエンタープライズセンターによる「ベンチャーキャピタル等投資動向調査」によれば、2005年度におけるベンチャーキャピタルの投融資額は2345億円で前年比46%の大幅増加となっている。
 投融資残高ベースでも9887億円、前年比35%増加した。さらに、従来日本のベンチャーキャピタル投資の大半は、レイターステージの企業を対象としたもので、米国のようなアーリーステージ企業への投資は少ないと指摘されてきたが、2000年以降はアーリーステージ企業への投資比率が徐々に高まり、現在では設立から5年未満の企業への投資が全体の約5割を占めているという。
 日本は規模的には、なお米国に比べて低水準とはいえ、ベンチャーキャピタルの活動が裾野を広げていくことで、将来的には米国でベンチャーキャピタルがもたらした果実と同様の成果が、日本でも表れ始めることが期待される。

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