メモ 特許制度は大幅な見直しが必要

特許制度は大幅な見直しが必要
swissinfo、2009/03/24 - 15:25

スイス人をリーダーとする研究チームによると、人間の知的好奇心を刺激し発明を
促進するには、特許よりも市場のほうが効果的だ。
ペーター・ボッサルト教授が率いる連邦工科大学ローザンヌ校( ETHL ) の研究チー
ムは、特許制度と自由市場制度が発明と知的財産権保護の問題に与える影響力を測
定する実験を行った。この実験結果は米科学誌サイエンスの最新号に掲載されてい
る。

特許制度VS市場制度
 ボッサルト氏の研究チームは、特許取得者だけが一定期間、先行者利益を得る特
許制度よりも、ほかの発明者も自分の発明の重要な部分の使用権利を売買取引でき
る市場制度の方が、受益者の数、共同研究の水準、開発スピードの面で特に優れて
いると主張する。
「古典的な経済の観点からすると、この結果はむしろ驚きです。特許制度は発明の
促進に役立ちますが、市場制度もまた効果的で、ある意味ではより優れています」
 とボッサルト氏は語る。

 研究チームは、発明の成果すべてが最初に出願して特許を取得した1人だけのもの
になってしまい、同様の発明をしたものの、2番目、3番目に申請をした出願者は手
ぶらで立ち去るしかないことが問題だと論ずる。

特許制度を有効に機能させ、発明を促進するためには、
「自分が絶対ベストだと考える人間が大勢存在することが必要です」
 とボッサルト氏は言う。特許法の基盤となっている経済理論は、ベストになる
チャンスはすべての人間に等しく与えられていると言う。

 「しかし実際には、1つしかない問題解決方法を誰よりも早く思いつくことができ
るのは自分だけだと考える人はほとんどいません。そのため問題を解いてみようと
試みることさえする人もほとんどいないのです。そして結局ほかの誰かが先に特許
を取ってしまうだろうと考えるようになるのです」
 とボッサルト氏は説明した。

 しかしまた同時に、人間は一般的に言って自信過剰でもあるとボッサルト氏は指
摘する。
「80%の人間が自分は平均以上だと言うでしょう」
これは数字的にありえない話だが、この自信が市場取引を作り出す上で役立つと
ボッサルト氏は言う。

リュックサック・ゲーム
 「リュックサック実験」では、各被験者に対しリュックサックにすべて入りきら
ない数の品物をたくさん与えられるが、彼らの任務はその中からいかにして「価値
の高い」品物を選び、できるだけ多くリュックサックに詰め込むかその方法を探る
ことだ。

 1回目の実験では、最初に問題を解いた人に報酬が与えられるという伝統的な特許
制度の方法を使用して被験者数人がゲームに取り組んだ。

 2回目の実験では、それぞれの品物の「証券」を売買する自由取引制度にのっとっ
てゲームを行った。

 その結果、「市場制度グループ」の被験者数人は実行可能な方法を見つけ出して
金銭的な利益を得たが、問題を完全に解くことはできなかった。
「彼らは問題の一部のみを解くことができました。これが答えだと信じる品物を見
つけるか、それらしい品物を持っていないことに気付き、それらの品物の売買に集
中したのです」
 とボッサルト氏は説明した。

 ボッサルト氏は、自由市場は第1発明者にとっても利点があるが、
「2番手、3番手となった発明者も自分の研究の成果から利益を得ることができる」
と言う。また、実験を繰り返すたびに、新しいアイデアを試す被験者が多数現れ
た。

現実世界への応用
 燃料電池の触媒の例を使って、この論理を現実世界に簡単に応用できるとボッサ
ルト氏は言う。
「例えばある科学者が、自分が発明した燃料電池にとってプラチナが最高の触媒で
あると確信し、その発明が公開されるとプラチナの値段が上がると知っていた
ら、彼は先物のプラチナを大量に買いつけるべきでしょう」

 もしこの発明の特許が存在しなければ、ほかの人もプラチナを触媒に使った燃料
電池を作ることができる。しかし、それでも第一人者になる利点はある。つまり発
明者はプラチナが最低価格の時に買い占めることができるといる利点があるとボッ
サルト氏は説明した。

納得がいかない
 誰もがこの新しい研究に納得するわけではない。
「これはゲーム理論の面白い実験ですが、全体的に言って市場制度が特許制度より
も優れていることを納得させてくれるようなデータではありません」
 と連邦知的財産権協会 ( IGE/IP ) のフェリックス・アドール氏は言う。

 特許制度には一定期間の独占性、利用制限、手続き費用などの短所もあるが、自
由市場制度に次ぐ最良の方法だとベルン大学の教授でもあるアドール氏は指摘す
る。
「現在までのところ、より優れた方法はほかにはありません。しかし特許制度
は、勝者が市場を独占するような状況を作り出すのではなく、無形の発明を取引可
能な有形財産に変えるのです」

swissinfo、サイモン・ブラッドレー 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
http://www.swissinfo.ch/jpn/front.html?siteSect=105&sid=10476966&cKey=1237540169000&ty=st