「優れた中小企業と手を結びたい」,GE社グローバルリサーチセンター日本代表に聞く協業戦略

Tech-On!インタビュー 2008/10/06 16:11
 米General Electric社(以下,GE社)の日本法人である日本ゼネラル・エレクトリック(以下,日本GE)は,日本の中小企業から技術提案を募るためのフォーマットを2008年9月に同社のWebサイトに設置した。インターネットを通じて技術提案を募集しているのは,GEグループの中でも日本GEだけである。日本の企業との連携を重視する理由や,その手段にインターネットを使う意図を,GE社グローバルリサーチセンター日本代表であるJuliana Shei氏に聞いた。(聞き手は,高野 敦=日経ものづくり)
――なぜ,このような取り組みを始めたのですか?
Shei氏:GEグループと協業できそうな日本の中小企業を,効率的に探せるのではないかと考えたからです。これは,全世界のGEグループの中でも初めての取り組みです。
――そもそも,なぜ日本なのでしょうか?
Shei氏:我々は,日本のテクノロジーに対して,以前から尊敬の念を抱いています。Welch(前CEOのJack Welch氏)もImmelt(現CEOのJeffrey Immelt氏)もそうです。(日本の企業との協業を進めるようになる)直接のきっかけは,我々が定期的に行っている幹部養成クラスで生まれました*。そこで,2003年のクラスに参加したチームに与えられたテーマが「日本」だったのです。このチームは日本に2〜3週間ほど滞在し,日本で有望な可能性があるのは「テクノロジー」と「ファイナンシャル・マーケット」であると提案しました。そこから「日本のテクノロジーと一緒に(GEは)何ができるか」というミッションが生まれたのです。
 * 同社の幹部養成クラスには(対象役職階層が低い方から)「MDC」「BMC」「EDC」の三つがあり,日本がテーマになったのはBMCのクラスである。BMCは,同社の「エグゼクティブ層」および「シニア・エグゼクティブ層」が対象で,1クラスの定員は45人,年に3回開催される。
――中小企業に照準を合わせている理由は何ですか?
Shei氏:協業のパートナーを中小企業に限定しているわけではありません。我々はまず,コニカミノルタグループ(協業テーマは有機EL,Tech-On!の関連記事)やホンダ(航空機のエンジン)といった大企業との協業から着手しました。
ただし,このような大企業は数が限られています。その点,中小企業ならば数え切れないほどあります。日本には,(GEグループにおける)ものづくりの中まで入れる優れた企業が多数存在します。こうした中小企業に対し,GEグループにコンタクトしていただくための機会を設けたいと思っていたのです。
そこで我々は,2007年に「ジャパン・テクノロジー・フォーラム」を開催しました。このときは,「知財で元気な企業」(経済産業省および特許庁選定)の掲載企業や,地方自治体や日本貿易振興機構ジェトロ)の推薦企業,一般公募企業などからリストを作成し,そこから選抜した企業を招待した結果,33社に参加していただけました。我々で選抜した理由は,協業できる見込みがない企業に参加していただいても,お互いにとってあまりよい結果にならないからです。このフォーラムには,GEグループの研究者や事業部門の技術者など150人ほど(海外のGEグループからの参加者22人を含む)も参加しています。午前はオープンな展示,午後はクローズドなプレゼンテーションとしました。その結果,3社と技術提携契約を,別の1社とはその企業の製品をGE社が海外市場で販売するディストリビューター契約を結んでいます。
――フォーラムだけでは不十分なのでしょうか?
Shei氏:同様のフォーラムは,2009年にも開催する予定です。フォーラムには実際に見たり話したりできる利点があります。しかし,コンタクトできる企業の数に限りがあります。参加する中小企業にとっても費用の問題などがあります。その点,インターネットを通じた応募であれば,費用はほとんど掛からないので,より多くの企業からコンタクトしていただけると考えています。
――応募する側の中小企業にとってのメリットは何ですか?
Shei氏:一般に,日本の中小企業が自社の技術や製品を海外に展開する場合,多くの困難が伴います。その点,GEグループは全世界に100カ国以上の拠点を構えていますので,よいパートナーになり得ると思われます。先ほど申し上げたディストリビューター契約などはそのよい例です。
これは冗談のような話ですが,2007年のフォーラムにご招待した企業がありました。ところが,この企業の経営者が知人に相談したところ,「相手がGEだと飲み込まれてしまうぞ」といわれたらしく,最終的にフォーラムへの参加を辞退されました。もちろん,我々はそうしたことを目的に技術提携を進めているわけではありません。中小企業は個性に満ちあふれていますので,それぞれの個性に合わせた契約形態を模索していくというのが我々のスタンスです。
――応募する上で「こうしてほしい」という要望はありますか?
Shei氏:我々が契約を結んだ企業には,従業員がたった2人というところもあります。まずは,あまり難しく考えないで応募していだだければと思います。
これまでの応募を見ていて気付いたのですが,単に「手掛けている事業や技術のリスト」になってしまっているものが非常に多いということはいえるかもしれません。こうしたリストだけだと,我々の事業や製品と結びつけてイメージするのが難しいのです。
スペックをアピールするのが多いのも特徴です。例えば,ねじの話をしますと,多いパターンは「当社のねじは,1000℃にも耐えられます」というものです。しかし,これだけではなかなか協業することをイメージできません。我々が知りたいのは,(定量的な)スペックではなく(定性的な)メリットです。「当社のねじはゆるみません」の方がイメージしやすいといえます。もちろん,その後に「しかも1000℃にも耐えられます」と書いてあったらなおよいでしょう。とにかく「強み」をアピールしてきてほしいと思います。技術をグローバルにアピールしていく上で,(メリットによる)差別化は不可欠です。