メモ

TLO 生き残りで連携や大学回帰
2009/4/6 フジサンケイビジネスアイ

 TLO(技術移転機関)とは大学や高等専門学校等で生まれた特許・技術を地域の企業で活用させるための専門会社。1998年のTLO法策定を機に全国に設置され、現在51機関ある。地域イノベーション創生に不可欠な中核機関だが、法施行10年を過ぎ、その行方が問われ始めている。

 ◆7地区が協力協定
 岡山TLOと山口TLOは3月下旬、岡山大学と八王寺工業が共同保有する特許「コンクリート製ブロック及びその製造方法」(3937025号)を山口県のファノス社へ非独占的通常実施権を許諾する契約を成功させた。コンクリートブロックを製造販売する中小企業のファノス社には、まさにぴったりの技術だ。
 実は、両TLOはTLO連携協力協定を結んでおり、今回はその成果第1号なのである。この協定は2008年7月、広域連携ネットワークによる技術移転の活性化を目的に、岡山TLO、沖縄TLO、四国TLO、長崎TLO、山口TLOの5機関で開始され、その後、鹿児島TLO、広島TLOが加わった。
 TLOとは元来、足元の地域企業のための技術移転を想定しており、出資者も地域の大学をはじめ有力企業や金融機関等で構成され、活動にも制約がある。しかし、地域企業の導入ニーズは多様で、ミスマッチもある。特許・技術を死蔵させることなく活用するためには、他地域の企業の活用ニーズと照らし合わせる必要があり、連携が図られた。
 現在、7TLO共同で特許・技術データベースを構築して相互に情報を公開し、推進先企業を紹介している。「今後も継続して成果を出し続けていくことがこの業界の活性化、ひいては日本経済の活性化につながる」と山口TLOの担当者は言う。
 地域連携の背景には、TLOが抱えている深刻な問題があることも無視できない。国や自治体等からの支援縮小だ。例えば09年度は経産省から創造的産学連携事業として2000万円の支援金が出るが、10枠しかない。また経済悪化のため地域の出資企業の撤退も増えつつある。
 その結果、「TLOの財政基盤をメーンとなる大学へ頼らざるをえなくなりつつある。大学内組織である知財本部への併合や関係強化が顕著になってきた」と大学技術移転の状況を調査している団体の関係者は語る。
 だがここにも問題がある。「専門機関としてのTLOと大学では意識も制度も違う。技術移転はしぼむかも」と都内の技術移転コンサルタントは語る。ある米国弁護士は「日本の大学の持つ固有の制度は、この10年そう進歩していない。特に、独占的ライセンシングを嫌い、侵害者に対して権利行使せず、意欲がうかがわれない」とTLOの大学回帰に批判的だ。

 ◆新産業創出を目指す
 関東地区のある大学のTLO担当者は「確かに非独占では企業側のメリットは薄れるが、企業倒産というリスクもある。権利行使は裁判費用や人材不足の面から係争を避けている」と説明。「TLOの目的は新産業創出。革新的技術シーズのみに投資すべきだが、教授の発明を大学が職務発明としたころから歯車は狂った」と吐露する。発明が教授個人のものなら意思決定は迅速で企業交渉も円滑になり、TLOは戦略的で効率的な経営ができたはずだったのに、というわけだ。
 しかし今、TLOは大学回帰へ。技術移転活性化の課題は、大学内部の意識・制度改革へ向かっていくことになりそうだ。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
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