妹尾先生の学会発表

'09 研究・技術計画学会・第24回年次学術大会(10月24日、成城大学

一般講演2D02
3つの「オープン戦略」−技術開発協業、製品技術公開、市場形成分業−
妹尾堅一郎(東大)

インテルインサイド(基幹部品主導型)】
インテルは、減収・減益が続く半導体業界に中においても収益を上げている。
・3つの「オープン戦略」があった。

1.製品開発:(MPUそのものはブラックボックス化する一方、外部との接続部分は規格化→モジュール化)
・結果として、インテルの言うことを聞く(従属化させる)
ルーターシスコシステムズも同様
・一方、日本の企業は壊滅状態で、今やヒト桁以下

インテルは、マザーボードを台湾企業へ作らせることによって、そのマザーボードを使ったパソコンをデルが作り、市場が何百倍にも拡大し、勝手にインテルパソコンを普及してくれ、結果として収益がすべてインテルに戻る、というビジネスモデルが形成された。
・私は、これを、欧米諸国の先進企業と、新興国の企業との“舎兄分業”、“イノベーション分業共闘”と言っている。
(これを水平分業だと言う方がいらっしゃるが、技術力と施設コストの差異をうまく利用している点に注目)
・エレクトロニクスの世界では、この形がどんどん広がっている。
・「インテル入ってる」と消費者が言う、ということはどういうことか?
・それは、「インテルが入っていればOKだろう」ということ。
・つまりは、部材ブランドによる完成品ブランド力の強化が可能!!
 (我々はウィンテルを主軸に置いて完成品を見るようになっている。史上初めてのスタイル)
・現在、食料品において、このモデルがかなり普及

2.オープンの意味を整理する必要がある。

〔1〕技術研究ファイズのオープン
(リソーシング協業化、脱自前主義)
(イン/アウト/クロス/コモン/オープン)
・技術のリソースが自前であるインソースだけではやっていけないことに対して、別の手法を使う。
すなわち、?大学やベンチャー等のアウトソースを使う。
①技術をお互いに交換するクロスソース(手法としてはクロスパテント)
②皆で共有地を作るコモンソース(パテントプール)
③公開技術を活用するオープン

・「オープン」と言ったとき、単なるコラボレーティブインベンションの場合が多い。
・しかし、インベションだけではビジネスモデルは動かない。
・技術を良い製品に実装し、その製品を良い営業マンが売る、というビジネスモデルは、とっくの昔に崩壊。
・にもかかわらず、そうした古典的モデルに今もって政策注入するのはいかがなものか。
・コラボレーティブインベンションは重要であるが、それだけではイノベーションにはならない。それがディフューズしないと、イノベーションにならない。
・したがって、中途半端の場合はリスクはかえって高い。
・例えば、IBMのオープンイノベーションをよく見てみると、オープンにはなっているが、オープンの部屋に入ると、中の操縦席にはIBMが座っている、という状況
・それを確認せずに、協業的な製品開発をすれば良いのだ、とすると、必ず後で知的財産マネジメントでもめる。

〔2〕製品アーキテクチャーのオープン
・製品開発フェイズのオープンとクローズ
(脱摺り合わせ主義)
・「内インテグラル、外モジュラー」だと、製品段階で、すでにビジネスモデルの次の支度が仕立てられるようにしている。
・プラス中間システムの工夫として、例えば、マザーボードのようなものに組み込んでディフューズできる格好を仕込んでおく。
三菱化学の場合は、機能性素材をある種のメディアに売り込む場合のレシピを作っておいて、それをソース下に組み入れて、それをなおかつ、生産をプルターンキーの形にしておいて、新興国に売る。
・その途端に製造は一気に上がって、コストダウンと市場の拡大が行われ、収益はすべて自分のところへ入るようにした。
・我々はレシピ付き販売と呼んでいる。

〔3〕普及フェイズのオープン
(製造販売分業化、脱抱え込み主義)
・できた製品を抱え込まずに、ある段階から新興国を活用して、普及へ持って行くというスタイル
・標準・知的財産権レバレッジとしてマネジメント
・市場形成の加速化を促し、効果的・効率的普及を行うことによって、収益が戻ってくる、というモデル
・これは、研究開発費の回収において、死の谷を縮めるという効果がある。
・ここがポイント。すなわち、問題を解決しないで、「問題を解消する」という発想に出ている。
・現在、研究開発費を回収するまでの時間が死の谷になるため、その間をファンドで繋ごう、とする政策的支援をおこなっているが、これは問題の解決策である。
・それに対して、インテルなどは死の谷をなくすビジネスモデルを考えた。
・そうなると、研究開発段階のオープンに対する政策支援は確かに意味があるのかもしれないが、
 産業競争力を強化するという意味では、全体事業を見据えた上でのオープンイノベーションの形成をしていかなければならない。

・いずれにせよ、オープンという言葉を整理して、議論をした方が、今後の議論がより整合性を取れるものになるだろう、と思う。


一般講演2D03
単純・単層から複雑・複層へ−“準完成品”概念によるビジネスモデル進化の探索術
開発協業、製品技術公開、市場形成分業−
妹尾堅一郎(東大)

【アップルアウトサイド(完成品主導型)】
ビジネスモデルと事業戦略が完全に進化を始めている。
この状況を的確に捉えないと、政策支援の仕方がまったく変わってくる。

【アップルアウトサイド(完成品主導型)】
・日本のエレクトロニクス産業がほとんど壊滅している中で、アップルは史上最高収益を挙げているのは何故か。
=1つは、アップルアウトサイドという状況・モデルを作り上げていること。
=それは完成品主導で、インテルの基幹部品主導とは対比的
・デザインの問題、ユーザーエクスペリエンスをどう入れ込むか、というマーケティングの話もあるが、本日は触れない。
ipotの部材の7−8割は日本製だった/東芝。筐体は燕市で磨いている。
・では、完成品のアガリはどれくらいか?
 部材コストは144ドルであるので、通常ならば20ドル30ドルもあれば御の字
 ところが、ご存じのとおり、アップルの122ドルのアガリを取っている。
・これは、あきらかに完成品主導で部材が従属させられている!! ということを意味する。
・日本の部材はシャアは取っていても、収益は上がらない。強いとは言えない。
 (部材については、インテルのように、収益性をきちんと確保し、なおかつ完成品を従属させて、経常が安定しない限りは、「強い」とは言えない。)
・さらにIpodナノ8G以降は、部材はすべて台湾企業へ発注され、シェアさえ取れなくなっている。
・完成品主導をやられると、部材は完全に下請け化される。
 (下請けで国際シェアを取っても意味がない。)

さらにアップルは、もう一つ強いことをしている。
=それは上位層のオープンをしている。(コラボレイティブマーケティング
ipod×itunes(モノとサービスの相乗化によってシェアを取っている。)
  (ipodの売り上げとitunesの売り上げが、徐々に相乗的に動いている。)
・彼らは、モノとサービスの連動化というビジネスモデルを作った。

さらに下位層(レイアー)へのオープン iphone
サードパーティへの「OSの公開」というのは、言い過ぎだが、アプリケーションソフトを自由に作れるような開発キットの提供というのがある。
 (この開発キットは、契約上は流通を全部縛っているが、サードパーティが自由に作れるようになっている。)
・世界中のサードパーティが与力のように集まりながら、アップルの競争力を強めている。
=自社の競争力ではなくて、他人の手を借りたコレボレーティブな、オープンによる競争力強化を図っている。
 (例えば、有名になったのは世界カメラ、発表4日で10万ダウンロードを記録)

こうしたことから言えるのは、「単体から複合体へ、単層から複層へ」
・例えば、10年ごとに音楽メディアは変化している。そこで注目すべきは、今までのものがスタンドアローンだったが、ある時期からネットワークドになったこと。
・すなわち、ipod単体で見るのは適切ではない。 商品サービスシステムとして、おそらくs.ジョブスは、1つの層だけではない、上層と下層を含めた複合レイアーでサービスビジネスを考えている。
=ここはipodで押さえて、マックパソコンをここに置いておいて、上はitunesというソフトウェアのストアを置く。下は、開発キットを置きながら、ソフトウェア群を形成する、というスタイル。

この話は、さらに一般化することができる。
・論述的な意味は、「単純・単層から複雑・複層へ」
=製品開発と知的財産マネジメント、標準化の話を考えると、
・従来は「要素技術単体を製品化し、それを特許で守れば良い」というのが基本的なパテントモデルだった。
典型的なものは、医薬品や機能性素材、すなわち物質特許に転換できるもの
=代替物は極めて難しく、模倣品を作ると発見がしやすい。
=特許効力が最も強い。
・要素技術が相互に関連し始めると、いわば部品化が行われる。
相互に関係する要素技術の集合体(asset of inter-rated elements)、システムを形成することになる。
=機械や電気部品にだんだんなってくるということ。
・さらにセットになると何か?
=単体から複合体・超複合体になると(レベルが上がると)、IT製品になってくる。
=携帯電話には1万を超える特許が使われている。
=自社1社による開発は不可能
・では、この技術形成をどうするか。
=リソーシングをどうするか、ということで、パテントプールを作りながら、という形成、あるいは標準化をうまく活用する話になってくる。
・ただし、「単純から複雑へ」移るということは、1つのレイアーの上での話でしかない。
・ところが、ipodにしても、製品サービス形態がすべて複層化まで行っている。
インテルは、パソコンないしネットワークシステムにおいて、どうやれば上位層までできるかを考えて、NPUという機械部品化を図りながら、全部を従えた。
=アップルは、商品サービスシステムを形成しながら、ここはipodだね、ここはパソコンだね、ここはituneストアだね、ここは開発キットだね、という形で形成している。
=複層レイアーを前提とした商品サービスのイメージ形成をした上で、自社はどこを押さえるか(全部の場合も、基幹の部分の場合もあり)を考えるのが、製品戦略であり、そのときに、どのように知的財産マネジメントの3つ(知的財産として権利化するか否か、標準化するか否か、契約の見込み)を駆使して、複層レイアーを牛耳ることができるか、というのがビジネスモデルになる。
・残念ながら、日本は大変な遅れをとっている。いまでに技術ができれば、事業形成が可能だと思っているし、研究開発の方々は事業化が出口だと思っている。
 研究開発においても、事業化の出口ではなく、成功の出口を見据えた戦略形成ができないと意味がない。
・死屍累々の技術を考えると、政策形成の段階においても企業・産業の構造を見極めないと、政策支援ができないのではないか、というのが私の問題意識。

・ビジネスモデルは多様な進化を遂げている。
独立市場形成ビジネスモデル
②エレベータビジネス(本体×メンテナンス)モデルの崩壊
  日本企業は、メインテナンスまで考慮に入れた事業形成をしているが、入札によって、すべて垂直分離している。
  例えば、霞ヶ関のビルのエレベータの大部分は、本体とメンテナンスが分離した、と言われている。
  重工業系に典型的で、ジェット機のエンジンや原発のメンテナンスは、入札によって分離されている。
  =安全性とは別に、ビジネス形成の上で大変な困難を生じさせる。
③ピストルビジネス(本体×消耗品)モデル・・・egカメラとフィルム、プリンターとインク
  but 消耗品はスタンドアローンで、リフィルやリペンスが出る。特に東アジアの新興国の市場をどう押さえるか、は大変難しいモデル形成
  さらに、スタンドアローンからネットワークに移ったときに、崩壊するリスクをはらんでいる。
④ソリューションビジネスモデル
  IBMのように、標準化されたパーツを使いながら、上位層に付加価値を寄せて、そこのノウハウ自体を収益源にする。
  IBMはインターナショナルビジネスマシンズからソリューションズへ移った
⑤オペーレーションビジネスモデル
  △△ではなく、オペレーションでビジネスを入れて、入札関係が入らないように障壁形成をする。
  知的財産マネジメントの問題はある。
インテルインサイドビジネスモデル
⑦アップルアウトサイドビジネスモデル

・②と③の問題に対する答えの1つが④と⑤
・ビジネスモデルが急速に動いていることを考えると、企業におけるビジネス戦略の建て方と、それに伴う政策形成の形も大きく変わってくるだろう。


Q1 アップルのモデルと、バリューチェーンモデルとの違いは?
A  バリューチェーンというより、バリューシステムである。というのは、バリューチェーンはリニアを想定しているが、相互に関連する形成なので、システム的に捉えた方が良い。

Q2 アップルモデルは、対象顧客自身も変えてしまうので、それとの違いはあるが?
A  問題は、今あるシステムを前提にするのではなくて、どういう商品サービスシステムを創造するかによって、戦略が変わって来る、ということだと思う。
   その場合は、どこに付加価値形成をするのか、という、その寄せ方がせめぎ合いになる。
   恐らくレイアー間のせめぎ合いと、レイアー内のせめぎ合いがあって、それに賭けている欧米企業というか、学習し始めた彼らの方が1周も2周も先に進んでいる。

Q3 インテルのモデルは、携帯電話みたいに△△でも、通用するモデルに成り得るのだろうか?
A  携帯電話の標準を日本は取ったけれども、携帯ビジネスの収益はすべて北欧に取られている。
   だから、携帯電話単体で見るのか、中継局だとか、基地局まで、すべての商品構成を見るのか、によってまったく違ってくる。
   例えば、中国は日本は取れずに、北御が取った。何故かというと、北欧は携帯電話はどうぞ使ってくださいとしたら、ブラックマーケットとグレーマーケットが出てきた。
   しかし、彼らが押さえたのは、その結果、市場が拡大するときに、最も収益源となる中継局と基地局である。
   そこについては、彼らはブラックボックスを生かして、標準をオープンにしていない。
   だから、携帯電話という発想をしたときに、機器だけではなくて、携帯電話をめぐるサービスシステムもバリューシステムを考えたときに、そういう議論が出てくるのではないか。