永田先生の学会発表

一般講演2B12
オープンイノベーションの成立条件に関する一考察
永田晃也(文部科学省・科学技術政策研究所)

広い意味合いを持つコンセプト故に、生産的議論ができなくなる懸念もある。
そこで、明確でない概念の取り扱いを取り上げたい。

<明らかにしていない論点>:
・オープンイノベーションは、どのような産業にとっても重要で、普遍的な解決策となり得るのか?
・何を、どのような場合に、どの程度オープンにすべきか?
 (具体的には、チェスブロウの著作には出てこないが、ここで有効な解決策の条件を考察することによって整理したい。)
・広範な事例に共通する事項を抽出するのではなく、何がこれらの事例において何がユニークだったのか、というポイントに注目することによって、オープンイノベーションが適用できる範囲、また、その限界を示すことができるのではないか。

<理論的始祖>:よろどころとなる先行理論
?Teece(1986)/PFI(Profit from Innovation)の理論
(大学院時代の指導教員が故か、チェスブロウに影響を見受けられる。)
・そもそも「何故、フォロワーの利益が、イノベーターを上回る場合があるのか」から出発して、持続的な競争力を構築するための、戦略的なフレームワークを、3つの戦略的な枠組みを規定する基本要素に立ち返って、構想している。
・例えば、ドミナントパラダイムが成立している前なのか、後なのか。
・どういう場合に統合すればよいか、の判断基準を提示しているわけであるから、オープン化のタイミングに関する議論である、と読み替えることができる。

?Von Hippel(1986,1994)/ユーザーイノベーション、あるいはユーザーイノベーションが可能な条件として彼が提唱した「情報の粘着性」
・情報が至たるコスト(情報の粘着性)が高い低いによって、ユーザーイノベーションを先取りして△△説の中に取り組んでいく課程
=オープンイノベーションの取り組みと位置付けることが可能、そのための条件を説明する概念だと解釈することが可能

・こうした論説の発表から20年間経ったが、その間に何が起こったか?
=グローバル経済の進展によって、必要な他のテキスト(補完的資産)にアクセスできるようになった。Teeceが注目した他のテキスト(補完的資産)の重要性は減じられた。byチェスブロウ
=コモンズの形成byレッシング、技術水準の形成byアローラなどのキーコンセプトによっても説明されている。

・けれども、こうした状況がどのような産業にも当てはまるのか、を問い直してみたい。
・ここでは、フレームワークとして、企業にとっての重要な外部環境要因の1つである、市場の状況を描いているが、その他に、
 要因?: 技術的な要因(製品アーキテクチャーの特長)
 要因?: 組織の内部の要因(なかんづく企業のコアとなるような組織能力の特性がオープンイノベーションの可否を決定できる。)
 要因?: 外部環境要因(資源を仲介する市場の存在)
を鍵に考えてみたい。

・要因?と?については、企業境界の決定要因についての先行理論の枠組みで理解できる。
・例えば、?はリソース・ベスト・ビューの議論の流れを汲んでいる。?は取引コストの理論から敷衍できる。

・要因?については、藤本の「製品アーキテクチャーの類型化を手がかりとする。(藤本2003)
・そのうち、「クローズドインテグラル型」の製品(部品間の相互依存度が高い)は、部品間のインターフェースのオープン性が企業を超えて存在しえないので、オープン化という戦略を採りようがない。
・しかし、個々の構成要素が相対的に独立しているような、組み合わせ型・モジュラー型はオープン化しやすい製品アーキテクチャである。
・すなわち、オープンイノベーション戦略が適合的かどうかというのは、こうしたアキテクチャの特性によっても左右される。

・要因?の組織能力の特性については、企業のコア=オープン化されえない能力とは何か、に立ち返った論点になる。
・リソース・ベスト・ビューの論者によって概念化された組織能力の中では、経営資源や専門分化された能力を組み合わせる能力(統合能力)を重視(JFクリステンセン)
・オープンイノベーションにとっては、統合能力が重要(とりわけ、外部資源の統合能力)で、それがどの程度蓄積されているか。
・そうした統合能力を蓄積するための投資コストと、リターンの期待によって、オープンイノベーションを戦略として取りうる。

・要因?は、近年の状況変化に関連して出てきた様々な概念は、いかなる産業でも適用できるわけでないだろう。
・成熟した仲介市場に直面していない企業にとっては、オープン化は莫大なコストがかかる技術モデルに帰結する恐れがある。

・このように考えると、チェスブロウが取り上げた事例は、様々な業種にまたがっているとはいえ、外部資源の統合能力が要求されるモジュラー型の製品設計が含まれている、という点で共通している。
・そうでないタイプの産業においては、オープン化の試みは効果的なイシューにならないだろう。
・しかし、オープン化・クローズド化を二項的に考えるべきではないだろう。
・例えば、自動車産業のように、全体的な業界標準は存在していないが、企業グループの中がオープン化・標準化された取り組みが存在している。
=統制されたオープンイノベーションセミオープンなイノベーションの進め方
・こうした統制されたオープンイノベーションの中で形成されてこた組織能力にこそ、日本企業の強力の源泉がある。
・それを戦略オプションとして考えるのは有用。


・製品アーキテクチャ自体が進化するという議論がある。オープン化の程度が変わってくる。
 (今後は、自動車だからクローズド・インテグラルとは言えなくなってくる。エコカーとなると、一層モジュール化した特長を持ってくる。)