メモ/東日本大震災の被災地域の過去を振り返って1

 東京大学総合研究博物館のホームページ(http://umdb.um.u-tokyo.ac.jp/DChiri/TChiri.htm)に、「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」というのが掲載されています。
 これをみると、過去の地形図と空中写真から東日本大震災津波被災地域の過去の土地利用変遷がわかります。(同ホームページには「日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チーム『2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震に伴う被災マップ』より作成」とあります。)
 このうち、陸前高田市の土地利用変遷をみると、戦前は、市街地は山際の限られた地域に集中していたものが、戦後、特に昭和30年代以降に市街地を広げ、海側に拡大していった様子がわかります。


図1 昭和8年(1933年)の陸前高田市中心部の地形図
5万分1「盛」・「気仙沼」 : 大正2年測図,昭和8年要部修正


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


図2 昭和22年(1947年)の陸前高田市中心部の米軍撮影空中写真

出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


図3 昭和26−27年(1951-52年)の陸前高田市中心部の地形図
5万分1「盛」 : 大正2年測図,昭和26年応急修正
同「気仙沼」 : 大正2年測図,昭和27年応急修正


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


図4 昭和42年(1967年)の陸前高田市中心部の地形図
2万5千分1「今泉」・「大船渡」・「鹿折」・「陸前広田」:昭和42年測量


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


図5 昭和47−54年(1972-79年)の陸前高田市中心部の地形図
2万5千分1「今泉」・「大船渡」 : 昭和42年測量,昭和54年修正
同「鹿折」・「陸前広田」 : 昭和42年測量,昭和47年修正


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


図6 平成6−11年(1994-1999年)の陸前高田市中心部の地形図
5万分1「盛」 : 大正2年測量,平成11年要部修正
同「気仙沼」 : 大正2年測量,平成6年修正


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


 やや意外なのは、高度成長期やバブル期を終えた1999年以降も市街地は拡大を続けていることです。南側の海沿いにある古川沼の周辺などは、「たった30年前、ここはいまだ田んぼでした。50年前も、80年前も、実は1300年前と大差なく、このエリアは『ときおり大水の出る、人家を作ってはいけない海辺の田んぼ』であり続けてきた。そこに橋を作り道路を敷設し、人間が居住しうる家屋を作り始めたのは、21世紀に入ってからのここ数年のことに過ぎなかった」のであり、「先祖代々、1000年来絶対に人家など出来ようのなかった、海辺の田んぼのもっとも砂浜寄りのエリアが、観光を中心に第三次産業の進展によって確実に都市化している・・・都市化してしまった」わけです。*1


図7 平成22年(2010年)の陸前高田市中心部の地形図
2万5千分1「大船渡」 : 昭和42年測量,平成22年更新


出典:東京大学総合研究博物館「2011年3月11日津波被災地域の土地利用変遷」、地形図は国土地理院提供


 なぜ、1999年以降も市街地は拡大を続けることができたのでしょうか。バブル期や90年代も、東京一極集中が強まって首都圏は成長を続けられたのだとしても、東北・岩手という地方に位置する陸前高田市がこの時期に成長できたとは考えにくいです。*2  事実、陸前高田市の人口は、昭和30年代をピークに一貫して減少傾向にあります。そのほか、農家の次男・三男が独立し、いわゆる分家住宅が増えるようにして市街地が拡大したことも考えられますが、世帯数の増加傾向は緩やかで、特に1980年以降の増加はわずかなものです。
 こうなると、成長もせず、人口も増えていない地方に公的資金を投入することによって、道路や公共施設を増やし、人の住まない市街地を拡大していったのではないか、という嫌なシナリオも頭をよぎりますが、果たして住宅そのものは増えているのでしょうか。


図8 陸前高田市の人口・世帯推移未完成

出典:国勢調査


 図9を見ると、居住世帯のない住宅の割合が増えているとはいえ、岩手県全体の住宅数が増えているのがわかります。おそらく陸前高田市でも増えていただろうと考えられます。


図9 居住世帯の有無別住宅数(岩手県)の推移未完成
単位:1,000戸

出典:「住宅統計調査報告」「住宅・土地統計調査報告」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 

*1:伊東 乾「なぜ津波で洗われる地域に家を作ったのか?―あれから1年、正しく怖がる放射能【3】―」『日経ビジネスONLINE 伊東 乾の「常識の源流探訪」』(2012年8月1日)http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20120322/230135/ なお、そもそも筆者が東京大学総合博物館のホームページを知ったのは、伊東氏の同記事を目にしたことによります。

*2:地方の中でも地方都市に人口が集中することはあり得ます。岩手県であれば、盛岡市がこれに当たります。