メモ/山本貴史氏の対談より

「大学の研究は基礎研究が多い中で、その基礎の部分で今すぐ事業化できるものだけを出願することについても、やはり違うと思います。特許は出願から20年の存続期間がありますので、その20年の中で事業化できる可能性があるものは追い続けるのが、大学の本来のあり方ではないでしょうか。」
「産学連携に携わる人間は産業界と大学とのコミュニケーションをとりながら、大学の研究が将来、花が咲く可能性があるのかどうか、企業が本気になって取り組んでくれるのかどうかということを、コミュニケーションの中から探っているわけで、絶対的に目利きができる人間なんていないと思うんです。
 同様に、10年後に日本がどうなっているかとか、世界がどうなっているかが分かる人間は多分いません。私たちの仕事は、産業界が本気で取り組んでくれそうな技術の適材適所の推進を行い、企業と大学研究者を結びつけることじゃないかなと思っています。」
「各大学に知財を帰属させ、大学が技術移転機関を通じて技術移転を行うという米国型スキームを、英国はサッチャー政権の頃に導入しました。この機関帰属はポイントとなります。スウェーデン等北欧以外では、韓国もかつて、特許は研究者の個人帰属でした。そうすると、予算に限りがあり、多くの成果は韓国国内でしか出願されておりませんでしたので、サムスンですら興味を持たないということもありました。」
アメリカの多くの大学関係者の方にお会いするのですが、大学における産学連携についてお聞きして、「お金のためにやっている」なんて答えた人は、ほとんどいなかったですね。ほとんどの方々が、大学の研究を社会に還元することが重要であることを認識したうえで、赤字であっても産学連携を行っているわけです。大学の研究が世に役立つことを示すために、大学内でそういうコンセンサスが形成されているような気がします。
スタンフォード大学もMITも、TLOの収入は全体の研究費の2%から5%くらいですから、それで研究が全部回していけるというほうが妄想でしょう。

小蒲:UCバークレーなんかも、『インパクト』という言葉を使いますよね。『パテントの収入レベルではなく、社会にどれだけインパクトを与えられるかどうかで、自分たちの活動が評価される』って言っていましたね。」
「 オープンイノベーションという言葉は日本企業も使いますが、残念ながら、外部の研究シーズを使い、本気で新しい製品を作っていくとか、新しい事業に取り組んでいくといったところの視点は、日本はまだ弱いと思います。
しかし、逆にいえば、だからこそ産学連携がいま求められているのかなと思うんですね。世界的にも不況なわけで、日本の産業界も楽観というよりは、これからは危機感のほうが強い中で、もちろん、企業同士がM&A戦略で統合して大組織になっていくような他の戦略もあるのかもしれませんが、新しい産業をどんどん生み出して、イノベーティブな国にしなければいけないわけです。」
A ライセンシーのスタンスという観点でいっても、企業の規模にかかわらず、海外企業の技術に対する評価は日本企業よりシビアです。いいモノをピックアップしていこうという感覚が非常に強く、そういった感覚は年々高まっているように感じます。・・・
B ・・・日本の企業に話を持っていって、残念ながら、どこの企業ともライセンスには至らなかった技術が、欧米の大手製薬会社9社に興味を持ってもらえたことがありました。その技術は、できれば日本企業にライセンスしたかったため、最終的にはなんとか日本の企業にライセンスすることができたのですが、やはり技術を見る視点も違いますし、評価も格段に違います。決断が非常に速いですよね。」
AとBは矛盾しないのか? 
日本の技術の質の問題か?技術の高い低いの問題ではなくて、質として外側に向いていないのでは?質というより意識の差かもしれないが。
そもそも私がこの仕事を始めたのも、将来に対する閉そく感を感じ、このままではいけないという思いがあったからです。
以前、東大教授でいらっしゃった中山一郎先生は、「技術を文章で書いたものが特許だ」と話されていましたが、日本の強みは技術だと思うんです。技術を生み出すところまでは、大学に限らず企業も努力してきているとは思うのですが、いかに技術を使える国にするかとか、あるいは、技術を生かす構造に至るような考え方には、まだなっていないように感じます。」
「レベルの高い技術が東大で生まれるのであれば、今はまだアメリカのモデルを追いかけている段階かもしれませんが、もしかすると今のアメリカのモデルよりも、もっとおもしろい産学連携のスタイルができるようなポテンシャルを、東大は十分持っていると思うんですよね。
「今後、BRICs諸国などがどんなルールを作ってくるかわかりませんが、いまであれば、日米欧のルールの統一は可能性があります。日米欧が同じルールであれば、韓国はそれに追従するし、やがては世界特許につながるでしょう。日米欧と中国、韓国で、世界の特許の88%が出ているため、いまの時点で世界各国をうまく巻き込んでおかないと、今後はBRICsルールで動かなければならなくなるかもしれません。
現在、中国の特許出願件数は世界一ですが、2年後にはアメリカと日本を足したくらいの出願件数になると予測されています。今後はインドやブラジル、ロシアにおいても、出願件数は増大するでしょうから、BRICsルールで戦わなきゃならなくなるわけですよ(笑)。BRICsルールってどんなルールかわかりませんが、いまのうちに特許出願の世界統一ルールづくりに邁進すべきでしょう。」
SanRen対談「日本の知を動かす」東京大学産学連携本部
http://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/jp/information/sanren/2012_07_04.html