メモ/スターバックス ストロー

「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」
 これは、ヘンリー・フォードの言葉です。彼はT型フォードの大量生産によって、自動車を人々の生活の必需品としました。しかし、T型フォードを開発している段階では、誰も自動車を求めてはおらず、顧客は「もっと速い馬車」を求めていたというのです。T型フォードの販売は1908年ですが、自動車の発明は1896年で世の中にありました。しかし、例え自動車の存在を聞いたとしても、「自分とは関係ない」と考えていたのでしょう。
 この言葉は、マーケティングの世界では以前から有名な言葉ですが、最近、この言葉の重みを改めて実感する時が来たと感じています。
 7月9日に「スターバックスが全世界でプラスチック・ストローを廃止する」というニュースが流れました。新聞、テレビ、ネットでも大きく取り上げられ、話題にもなりましたが、「突然、なぜスタバが、なぜストロー?意味あるの?」という反応も多くありました。一方で、僕は、こんなに大きく取り上げられると思っていなかったので、驚きました。
 立教大の「サステナビリティ&ビジネス」の授業で「脱プラスチック」を取り上げていました。脱プラスチック・ストローは、スタバが突然でも、始まりではなく、ヒルトン・ホテルなどグローバル・ホテルチェーンでも始まっていましたし、
英国マクドナルドでも紙製ストローへの移行テストが始まっていました。台湾では、今年2月に、2019年からの使い捨てのプラスチック飲料用ストローの禁止を発表しており、2030年にはプラスチック製のストロー、ショッピングバッグ、使い捨て容器・器具を完全に使用禁止とします。
 このような脱プラスチックの動きは、日本でほとんど報じられていなかったので、スターバックスが大きく報じられたのは、さすがスタバ!とも感じました。
スターバックスの本社のあるシアトル市は、今年7月から使い捨てストロー禁
止???と報じられていますが、実際は少し違います。シアトル市は、2008年にレストラン・カフェ・食品企業が、使い捨ての包装容器で食事を販売すること、自然分解しない・リサイクルできないカトラリー(ナイフ、フォーク、スプーン)やストローを提供することを禁止する条例を出していました。ただ、ストローなどについてはコストに見合う代替品がなかったため、適用除外となっていました。
 つまり、10年前から脱プラスチックは始まっていました。シアトルには約5000のレストランやカフェなどがあるそうですが、シアトル・レストラン連盟は、「私たちは環境保護を促進し、なおかつ顧客を十分満足させうる新たな商品開発を進めてきた」と述べています。
 そして、NGO Lonely Whale と地元企業、公共施設、シアトル・マリナーズらが協力し、2017年9月、「Strawless in Seattle」が立ち上がりました。そして、9月だけで230万本の使い捨てストローを削減できたといいます。それを踏まえて、シアトル市長は2018年6月末で条例免除を終わらせ、使い捨てストローを禁止する都市となることを宣言したのです。
 もし、スタバのストローのニュースを「突然」と思うなら、「意味あるの?」「日本では無理」という意見になるのもわかります。しかし、この10年、世界各地で「脱プラスチック」への動きを始めています。そして、リサイクルされない率が高く、紫外線で分解されやすいため負荷が大きく、短期間に100%達成できるものとして、脱ストローが第一弾として世界に広がっています。
 「脱ストローなんて無理」と考えるのもいいのですが、そこで止まっていると、
実は、脱ストローによって生まれる「新しい市場」を見落とすことになります。
 2020年代は、脱炭素、脱プラスチック、SDGsなどの動きの中で、このような変化がどんどん起きていく時代になります。この10年に起きる変化は、IT革命と言われた2000年前後の変化を遥かに上回ると言われています。よくわからない変化をスルーしたり、無理と決めつけたり、否定するのか、よくわからない変化だからこそ、何が起きているのか知ろうとするのか。
 「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、 彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」今、私たちには「速い馬を求めていないか」問われている時が来ているように思います。

広石 拓司「“速い馬”を求めていないか?」
株式会社エンパブリック メルマガ「根津の街から」
(第181号 2018年8月16日配信)