メモ/仏CNRSの特許状況

デイリーウォッチャー File No. 866-002
営利をもたらす発明
2010年 3月

国立科学研究センター(CNRS)発行の「CNRSジャーナル No. 242」(2010年3月)の14
ページに掲載された標記記事では、2008年7月1日〜2009年6月30日の間のCNRS成果の
産業界向け提供について、CNRS産業政策部長のMarc J. Ledoux氏がインタビューに
応えている。概要は以下のとおり。

1) 提示された特許数は?
・2008年7月〜2009年6月に公開された特許は339件で、いずれもCNRSが所有または他
と共有しているものである。これは前年同期比で19%以上の躍進である。
・上記339件中、106件はCNRSとその子会社Fistが直接管理し、106件は提携大学にお
いて、127件はその他の提携先(主として産業界または他の研究機関)において管理し
ている。
・医療、光技術、ナノ技術、農学からクリーンエネルギーに至るまで特許に護られ
イノベーションは広範囲を、しかも多くの場合同時に複数分野をカバーしてい
る。その証拠として、これら特許のうち約半数が複数分野の研究室(CNRSの強味でも
ある)に由来するものである。先頭に立つのは、生命科学、化学、情報・画像科学技
術の3分野である。

2) 339件という特許数は注目に価するが、それがイノベーションの指標と言える
か?
・上記特許数のほか重要なのは、成果利用に至った特許数である。これについては
非常に満足すべき結果となっている。339件中150件がライセンス形式または産業界
との枠組み協定で使用権を与える形式ですでに使用されている。これは44.2%を占
め、CNRS相当の機関と比較してかなり大きな数字である。また特許数自体がかなり
増加しているにも関わらず、この率は前年同期比で3ポイント以上高くなっている。
・上記数字には、過去の特許について2008年7月〜2009年6月の間に締結された80件
以上のライセンス契約は含まれていない。

3) 成功の理由は?
・特定研究の枠組み協定や協力協定を通して、研究プロジェクト開始前のかなり早
い段階で、産業界の提携先とその成果利用について準備を進めている。これが成功
の主要なカギの一つである。
・もう一つの理由として、研究成果の質の改善がある。選抜委員会によって投げ返
される発明申告数がそれを物語っている。2006年は30%であったが、現在は10%に過
ぎない。
・その他、米国で出願される特許の数と質において、CNRSは公的研究機関の上位10
機関に初めてランクインした。欧州からこのクラスに入った機関としては唯一であ
る。

4) CNRSの特許収入は如何ほどか?
・2008年の使用料収入は46.7百万ユーロに達し、その89.9%が癌治療薬「タキソテー
ル」から生じたものである。
・前年より10百万ユーロ少ない。この減少は主としてドルの下落に起因するもの
で、5百万ユーロの損失となった。またエイズ検診テストや別の抗がん剤という収益
性の良い2つのライセンスの期限が切れたことによる。
・2008年7月〜2009年6月の間、成果利用された特許の発明元である215名の研究者の
各々が、平均150,000ユーロ(1,000〜200,000ユーロの幅がある)を受け取ってい
る。またCNRSの2〜3名の研究者は使用料で年数百万ユーロを稼いでいる。これらの
数字は統計に含めていない。

5) 2009年度以降の見通しは?
・2009年度は経済危機にもかかわらず立ち直りを見せ、59.1百万ユーロの業績とな
り、そのうちの83%は「タキソテール」によることになる。
・2011年、「タキソテール」は多数の国の公的分野に浸透するが、使用料への貢献
は新たに勢力を増してくる3つのライセンスで埋め合わせることになる。
・新たな3つのライセンスとは、?B型肝炎薬、?化粧品の処方、?狼瘡治療薬
・経済状況が産業界のイノベーションプロセスをスローダウンさせることがなけれ
ば、2013年には収入が100百万ユーロに近くなる。

6) 2008年7月〜2009年6月の間の起業件数は?
・CNRSからの直接起業は24件、CNRSの研究室の支援をバックにしたものが15件。
・規模が最も大きいのは、生命科学、情報通信技術、科学、材料の分野である。
・起業件数は、平均年40件程度で伸びている。
・1999年以来の起業件数は435件であるが、消滅したのは64件のみ。成功率85%であ
る。