メモ/国家の崩壊/鈴木寛

「近代社会では、あらゆることに定義を定め、線引きをし、線の内側の人々に対して、法的な義務や権利を付与し、支援することで、統治がなされてきました。・・・それまで信用の源泉は、神との契約によって守る「God-based Confidence」でした。神が死後の世界を約束するから、代わりに神の教えを守りましょうという世界ですね。それが、1755年のリスボン大震災で大きく揺らぎ、近代化が始まります。
 フランス市民革命を経て、ナポレオン法典の登場によって契約ベースに変わっていきます。神の代わりに国家が国民の安全・生命と財産を保障する、その代わり、違反者には罰則(監獄送り)をあたえることによって、社会の秩序や社会の信用というものを創っていく。「Jail-based Confidence」ともいえるでしょう。」
「デジタル・テクノロジーの登場により「Technology-based Confidence」「Inter networking personal relation based Confidence」の社会になりつつあります。グローバル化、ボーダレス化が進み、神も国も、信者や国民の生命や財産を十全に保証することができなりつつあるのが、現代です。そうなると生命と財産を守るもっとも強力な装置は、テクノロジーとそれぞれの個別の人間関係ということになります。」
「国家のゆらぎや綻びは加速します。財政赤字が深刻化し、政府の問題解決力は後退する一方です。また、国民の間の同胞意識は急速に薄れていきます。その背景に、健康・医療イノベーションの発展があります。これまでの社会は、経済の格差はあっても寿命の格差はありませんでした。どんな大富豪でも若くして亡くなる可能性をゼロにはできない」
「しかし・・・医療・健康イノベーションが進むと、新たな治療法や健康法を実行できる経済力と知力と人間力があるか否かにより、寿命の格差がついてしまいます。」
「そうなると、健康共同体としての国家の一員である同胞としての意識や紐帯も緩んでくるでしょう。今後、健康共同体が、どんどん細分化され、地域・階層・能力などによって、分断されてくるのです。」
「しかし、個々の人間は信頼できる。そういう関係をいろんなところで作り、知恵や思いを分かち合うことが、一番のリスクマネジメントなのです。」
鈴木寛「混沌社会を生き抜くためのインテリジェンス」DIAMONDonLINE2018.3.30